『悪魔の子』が教えてくれた“正しさ”──ドイツで学んだ「偏見を意識した教育」との共鳴

Ausbildung

生まれつき偏見を持っている子どもはいない。偏見は両親や周りの大人から学ぶものである。

この「偏見を意識した教育(Vorurteilsbewusste Erziehung)」の目標は『子どもが偏見を偏見だと認識し、そこから距離を置けるようにすること』である。

そうすることで、子どもたちは正しい正義感を育み、理不尽な差別や偏見に対し自身や周囲を守る力を得る。それによって将来、他の子どもたちのために立ち上がることが出来る。

 

アニメ『進撃の巨人』のエンディングとして世界中に衝撃を与えた、ヒグチアイさんの『悪魔の子』。私もこの曲が大好きで、聴くたびに胸の奥がぎゅっと締めつけられるような気持ちになる。

そんなある日、ドイツで保育士のAusbildungの授業を受けていたとき、頭の中でこの曲の歌詞と、授業で学んだ内容がぴたりと重なった。

 

「偏見を意識した教育」とは

現在のドイツのような多様性社会では、人種・国籍・宗教・障がいなど、あらゆる違いが日常に存在している。

だからこそ、子どもたちが幼いころから “違いは恐れるものではなく、豊かさの源だ” と感じられるような教育が必要であり、大切だとされている。

この教育の根底にある考え方はとてもシンプルである。

冒頭に述べたように、偏見は生まれつきのものではない。子どもは、大人の言葉や態度から偏見を学ぶ。

だからこそ、教育者の役割は「子どもが偏見を偏見として認識できる力」を育てること。その気づきこそが、正しい正義感を育み、やがて他者のために立ち上がる力になる。

この教育は、子どもの偏見が固まっていない、幼ければ幼いほど有効だとされている。

 

『悪魔の子』が語る“偏見の構造”

授業中、ふと『悪魔の子』のこの一節が頭に浮かんだのだ。

鉄の弾が 正義の証明 貫けば 英雄に近づいた
その目を閉じて 触れてみれば 同じ形 同じ体温の悪魔

まさに、偏見の構造そのものだと思った。

“正義”という言葉のもとに、他者を悪とみなす。

けれど目を閉じて触れてみれば、相手も自分と同じ「人間」なのだ。

さらに心を打ったのが、この一節。

正しさとは 自分のこと 強く信じることだ

これは、“自分だけが正しい”という傲慢ではない。むしろ、周囲の偏見や価値観に流されず、

「自分が感じたこと」「自分の心の声」を信じる強さのこと。

 

ドイツの偏見教育が目指しているのも、まさにこれだ。

他人が作った「正義」ではなく、自分の中にある小さな感覚を信じる力。

それが、偏見から距離を取るための最初のステップになる。

 

自分の中にも“悪魔の子”がいる

歌の最後に出てくるフレーズ。

気づいたんだ 自分の中 育つのは悪魔の子

この部分を聴いたとき、私はドキッとした。偏見は「誰かが持っているもの」ではなく、自分の中にも育っているものだということを突きつけられる。

だから教育は、「自分の中の偏見」に気づくためのものでもある。

他人を悪魔にしないために、まず自分の中の悪魔に気づくこと。その気づきを通して初めて、多様な人と環境と共に生きるために必要な“優しさ”や”理解”が生まれるのだと思う。

「正しさ」とは、信じ続ける勇気

『悪魔の子』とドイツの「偏見を意識した教育」――

まったく違う文脈に見える二つが、実は同じことを伝えていた。

 

正しさとは、他人に教わるものではなく、 自分の中で見つけて、信じ続けること。

そしてそれは、偏見を乗り越えるための一番小さくて、一番強い一歩でもある。

 

おわりに

世界は確かに残酷だけれど、それでも誰かを愛し、信じ、理解しようとする姿勢の中に人間の“希望”がある。

『悪魔の子』を聴くたびに、ウクライナやガザの戦争について思わずにはいられないし、その度に胸が締め付けられる。

私は子どもたちがこの“希望の種”を育てるための基礎を得られるような教育に関わっていきたいと強く思う。

そして、ヒグチアイさん。一体人生何周したらこんな歌詞を書き上げることができるのでしょうね。

 

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