とある日の夕方、突然私の親友から連絡が来た。
『今晩20時から、フライブルク大の学生寮で絵を描くイベントがあるんだけど、一緒に参加しない?』
翌日に一つの科目で筆記試験を控えていた私はその夜は勉強するつもりだったので、今日かよ!と思いつつも、まあ今日の20時に勉強してもどうせ頭に入らないし、たまには気分転換もいいかも‥という結論に至り、参加することにした。
そしてその決断は大正解だった。
20時に学生寮のバーと呼ばれる地下室に入ると、10人くらい到着したばかりの学生さんたちがいた。その中に親友たちを見つけ、一緒に参加費の5€を支払い、キャンバスと一杯の飲み物をもらい、席についた。
テーブルには全面、新聞紙が敷かれていて、所々にアクリル絵の具が散らばっていた。
パレット代わりの紙皿、筆、水の入ったコップ。
何を描こうかな~?とワクワクしているうちに、隣に座っている女の子に話しかけられた。彼女は今年からフライブルク大学に入学してこの寮に住んでいるイギリス人らしい。彼女のドイツ語がとても上手だから、普通にドイツ人かと思った(笑)と言うと、驚きな事に、彼女はまだドイツ生活3か月目らしい。
ドイツに住んで3か月でこんなにドイツ語上手かよ!と、ドイツに住んで6年目になる私はもう、軽くショックだった。。若いっていいなぁ~。
そんなこんなしているうちに、イベントスタート。気が付いて周りを見回すと、30人弱が一つの大きなテーブルを囲んで座っていた。
最近のポップソングが流れ、リラックスした雰囲気の中、親友とおしゃべりしつつ筆を取る。
何を描こうかまったく浮かばなかったので、とりあえず近くにあった濃い青を背景として塗りたくっていると、BGMの一曲目が終わり、突然アナウンスが入った。
『それではみなさん、絵を隣の人に渡してください~そして回ってきた絵を描いてください~』
……まじか!自分のキャンパスに自分の好きなように絵を描いていいイベントじゃないんだ‥。と、ちょっとがっかりしつつ、キャンバスの60パーセントくらいが濃い青で塗られた自分の絵を隣に渡した。多分私と同様、多くの人が驚いていたけど、みんなそろそろと自分の絵を隣の人に渡していた。
私のところには、隣のイギリス人の子が描いた、剣山のような岩々しい場所のてっぺんにいるドラゴンの絵が回ってきた。
ちょっと待て、めちゃめちゃうまいやん‥!私が付け足すところなんてないんですけど!と思いつつも、まだ上の方に余白があったので空と雲を書き足してみた。
BGMは終了し、次の絵が回ってきた。
全面がとても綺麗なグラデーションに塗られた絵だった。
ここに何か足すのはすごく勇気がいるなあ‥と思いつつ、夕焼け空と湖面を想像して、白い星のような点々を描いてみた。(後からよく考えたら、夕焼け空に映る青い湖面はおかしいけど笑)
この時私は、このメソッドがとても面白いことに気が付いた。
他人からのアイデアに、自分のアイデアを乗せて、そこに他の人がまたアイデアを重ねていく。
親友は、最初こそ自分の絵を描き続けたいと言って隣に渡すことを拒否したけど、私がすごく楽しそうに人の絵に書き足しているのを見て、参加し始めた。
こんな感じで、みんな結構夢中で描いていた。
次に回ってきた絵がこれ。
“黒い森の満月の夜”というタイトルが似合いそうな絵だった。
これこそ本当に上手すぎて、どこに何を書き足していいのかさっぱりわからない。
針葉樹の色の混ざり具合も、夜空の濃い色合い、散りばめられた星空、おぼろげな月明かりまで、どれをとっても上手としか言いようがなかった。
今までドイツであまり絵が上手な人を見かけなかったからか、心のどこかでちょっとなめていたのだけど、今日見た絵はどれも本当に上手だった。
やはり絵に興味ある人が来るイベントなのだな~と改めて実感しているうちにBGMが終了し、何もつけ足さないまま次へ渡した。
そうして色んな異なる絵たちが私のもとを通りすぎていき…
1時間半くらいかけて自分の絵が一周し、自分のもとへ帰ってきたところで、イベントは終了した。
帰ってきた絵がこれ。
私の描いた濃い青は海として捉えられ、空にはドラゴン、海上には船、変なタコと薄気味悪い人魚が描かれていた。みんながみんな、自分の手元に戻ってきた絵を眺めて色々と意見や感想を言い合っている。
すると主催者の1人が私の絵を見て『この絵は壮大だ!宣伝用に写真を撮ってもいいかい?』と訊いてきたのでもちろん快諾した。いいけど、こんな絵でいいんかいな‥?
私はその主催者に、本当に楽しかった!このイベント次はいつやるの?と聞くと『今回が初めての試みだけど、もし多くの人が気に入ってくれるなら、月一でやってもいいよ!』と言ってくれた。
アクリル絵の具やキャンパス代が結構高くついてしまうらしい。
毎月来るから毎月やって!と10回くらいお願いして帰った。(しつこい)
回ってくる絵をみて気づいたのは、とにかく木を描く人が多いこと。地面、木、空みたいな。
そういう《典型的な》絵は私にとって味気なく、あまり書き足す意欲をそそられなかった。
逆に、意味の全然わからない、不明なオブジェクトがそこら中にある絵のほうが興味をそそられる。なんか、何でもありな気がして。例えると竹下通りのような色んなものが混在する感じ!
自分は結構、目立つものを書き足せる勇気があるタイプなのだというのも知ることができた。
あと、もともとの絵の雰囲気に合う何かを書き足せたら、すごく満足感があった。
とても面白い、自分の一面を知ることのできる、色んなインスピレーションをもらえる、楽しいイベントだった。
学生寮がやっているイベント、結構楽しいのあるから要チェックだな~と思い、帰ってからインスタをそっとフォローした。。
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