私と同僚は、保育士のAusbildungをする実習生たちを現場で受け入れる立場にある。
彼らは3年目、あるいはAnerkennungsjahr(認定年度)の実習生。つまり、もうすぐ一人前として現場に立つ目前の段階だ。
そんな彼らに私たちが求めるものを一言で表すならば、「前のめりな姿勢」である。
「いちいち確認しなくていい」
正確に言うと、「私たちにいちいち確認せずとも、自分が“今これをすべき”と思ったことはどんどんやってほしい」。
たとえやりすぎたり、少し違った方向に行きそうになったとしても、その時は私たちが止める。それくらいの “前のめりさ” が、現場には必要なのだ。
もちろん、どこまで踏み込んでいいのか不安になるのは自然だ。特に控えめな日本人の性格からすると、そういった姿勢を取るには大きな勇気がいる。
でも、それでも一歩踏み出してもらわなければ、困るのである。
実習生に前のめりな姿勢を求める理由

「一歩前に出る」とはどういうことか
たとえば、子どもたちが列になって移動する場面を想像してほしい。
普通の実習生なら、一番後ろについて、列が乱れないように見守るだろう。
でも私たちが求めるのは、一番前に立って、先頭として目印となり、整列を促し、歩く際のルールを伝えて、列をリードする人だ。
列の後ろから支えるのと、先頭で導くのとでは、責任感も視野も全く違う。
「先頭に立つなんて気が引ける…」と思うなら、主力教諭に一言確認してから動けばいい。
大事なのは、“その気が引ける”気持ちを理由に、やらずに終わることを避けることだ。
前のめりを好まない主力教諭もいる
もちろん、すべての主力教諭が“前のめりな実習生”を歓迎するわけではない。
中には「実習生には主力教諭の仕事をさせない」と明確な線引きを持っている人もいる。出しゃばった行動と見なされ、牽制される場合もある。
でも、それにはその人なりの理由がある。
よく観察してみると、そういった教諭は実習生を「守りたい」という気持ちが強い人であることが多い。無理をさせたくない、責任を背負わせたくないという、思いやりからくるスタンスなのだ。
だからこそ、前に出たいときは、まず声をかけてみてほしい。
「私は準備ができているので、任せてください」と、自分の意志を言葉にする。
お互いの気持ちを話し合うだけで関係性は変わるし、信頼を得るきっかけになる。
実習は、大人同士のコミュニケーションの練習でもある
ドイツの教育現場では、子どもに対する接し方と同じくらい、“大人同士の対話”が大切にされている。
だからこそ、実習の時間は「保育技術の練習」であると同時に、「チームの中でどうコミュニケーションするか」を学ぶ絶好の機会でもある。

「主力教諭との関係性」=チームの一員として動けるか
ある程度、子どもたちとの信頼関係ができ、グループにも馴染み、主力教諭とのやり取りも少しずつ掴めてきたら、「自分はもうチームの一員なんだ」と自覚して動くタイミングだ。
教育現場は、マニュアル通りに進むことはほとんどない。
その場その場で判断し、支え合って動く力が求められる。
だからこそ、「私は実習生だから…」と“守り”に入ったままでは、現場にとっても、本人にとってももったいない。
私自身も、実習生3年目の時、主力教諭から今自分が言っていることと全く同じことを言われた。
「聞かなくていいから、自分がすべきだと思ったことをなんでもやって」
当時の私は、「どこまでやっていいのか」「出しゃばってないか」と悩み、結局行動が控えめだった。
週2日の実習という断続的なスケジュールだったこともあり、グループとの関係性も浅かった。という理由もある。
でも今ならわかる。
これは、「信用してるから、好きにやっていいよ」という意味だったのだと。
私はその信頼に甘えず、もっと勇気を出して動くべきだった。
「どんな実習形態か」も大きな違いになる
特に“前のめりな姿勢”を試すには、Anerkennungsjahrのような毎日通う実習スタイルが適していると思う。
正直に言うと、PIAのように週2日の実習だと、関係構築にも時間がかかり、実践を深めるにはどうしても限界がある。
だからこそ、Anerkennungsjahrは「本気で現場に立つ準備」ができる絶好のチャンスだ。
「世話してもらえるのが当たり前」じゃない
実習生という立場にあると、「教えてもらって当然」「指導してもらって当然」と感じてしまうこともあるかもしれない。
でも、保育の現場は“世話してもらう場”ではなく、“子どもたちのためにチームとして動く場”
むしろ、教えてもらえることへの感謝を忘れずに、自分から歩み寄る姿勢こそが信頼を築く。
そういう気持ちのある実習生は、確実に周りから好かれ、チームの一員として受け入れられる。
コミュニケーションも、積極性を持って
そして何より大事なのは、積極的なコミュニケーション。
私が実習生に伝えたいのは、これだ。
「私は実習生ですが、一緒に働く準備ができています」
「わかっている場面では、先導します」
この意思表示を自分の言葉でしっかり伝えること。
主力教諭に“察してほしい”と思っていても、忙しい現場ではそれは通用しない。
だからこそ、面談などの時間にまとめて反省や目標を話すことで、日常のやり取りがスムーズになることもある。
おわりに
今回私が記事の中で伝えたかったことは、明日の実習で簡単に実践できるものではないのはよくわかっている。
でも、実習生と主力教諭、どちらの経験も持つ私からして、それがうまく機能すれば、その時のベストの状態のチームでいられると思うのである。
G君の同伴を一年経験し、他のグループで働いているポテンシャルのある実習生のスタイルを見て感じたことをまとめた。



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