日本語では「バカ」「アホ」などの相手を侮辱するための言葉がある。でも世界的に見ると、日本には侮辱言葉が圧倒的に少ない方ではある。
まぁ「ハゲ」とか「ババア」とか、変えられないものに対して侮辱する言葉がたくさんあることには引っ掛かりを感じるけども、それはまた別のテーマだ。
ちなみにドイツでは「ハゲ」という言葉はあるけど侮辱言葉ではないし、「ババア」なんていう女性を年齢でバカにする言葉は存在しない。
さてドイツの小学生は、どんな侮辱言葉を使うでしょう?
「シャイセ(クソ)」とか、「カケ(可愛げのある“クソ”)」くらいならまだ流せるが、完全アウトな侮辱言葉も存在する。
とくに、お母さんを侮辱するタイプのものは最悪だ。ここに書きたくないくらい汚い言葉である。
この“お母さんを侮辱する”タイプの言葉は、子どもたちにとってはとてつもなく大きなダメージになる。泣きわめきながらの殴り合いに発展することも珍しくない。
子どもたちからそういった言葉を聞いたときは、必ず1対1で話す。
まず聞くのは、「その言葉の意味を知ってて言ってるの?」だ。
ほぼ9割の子が「知らない」と答える。つまり、意味を理解せずに使っている。だからこそ、まずは「それがどんな意味を持つか、またどれだけ相手を傷つけるか」を伝える必要がある。
だいたいの子どもはこの時点で納得する。それでもピンとこない子には、こう聞く。
「なんでケンカしている相手じゃなくて、そのお母さん——ここにいない、まったく関係のない人を侮辱するの?」
これでようやく理解する。それでもまだ冗談半分にしてしまう子がいたら、最後の手段としてこう言うだろう。
「じゃあ今からその子のお母さんに電話して、自分の言葉を直接言ってみようか。」

一度、私がまだ実習生だった頃のこと。担当していた3年生のクラスで、子ども同士が例の“お母さん侮辱ワード”を言い合い、結果、殴り合いの大ケンカに発展した。
同僚がその場をおさめたのだが、彼女は怒りを隠さなかった。教室の空気がピシッと張りつめ、子どもたちは言われるがまま静かに席についた。
そして彼女は前に立ち、落ち着いた声で言った。
「今からみんなひとりづつ、将来なりたい仕事を言って。」
子どもたちは少し戸惑いながら答えていった。
「サッカー選手」
「警察官」
「ショップ店員」
最後の子の発言を聞き終えると、彼女は全員をまっすぐ見て、はっきりと言った。
「なれないよ、そのままじゃ。絶対になれない。なんでかわかる?
そんな汚い侮辱言葉を使う人間は、心のレベルが低すぎるから。」
あのときの静けさを、今でも覚えている。
子どもたちはショックを受けつつも、その言葉を真剣に受け止めていた。
誰も泣かなかったけれど、全員が自分の中で何かを考えているのが分かった。
私もそのとき、思った。「言葉の重さを理解させるのは、怒鳴ることじゃなくて“考えさせること”なんだ」と。
侮辱言葉はどの国でもなくならない。
それでも、どう扱うか、どう伝えるかで、子どもたちの中に残る“言葉の意味”は変わってくる。
子どもに「そんな言葉を使うな」と禁止するのではなく、「それを言ったら、どんな気持ちになる人がいるか」を一緒に考える。
その時間こそが、教育の本質だと思う。



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