ドイツでは、毎年5月1日は「労働の日(Tag der Arbeit)」という祝日。
もともとは19世紀の労働運動に端を発するこの日は、今では労働者の権利や社会的連帯を再考する日であると同時に、春の訪れを楽しむ日でもある。
特に北ドイツでは、この日にデモが行われることが多く、時には車に火をつけるような過激な抗議活動が話題になることも……。
一方で、ありがたいことに(?)私が暮らす南ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州では、もっと穏やかに「ハイキングの日」として親しまれている。
余談だが、職場の同僚はガールスカウト経験のある本格派アウトドア女子。
このハイキングデーに合わせて、なんと4日間かけて40kmを歩くプランを立てているとのこと。
「久しぶりの野外泊楽しみ~!自然楽しみ~!毎日10km歩いてどこかに泊まるって感じ。でも10kmくらい、正直屁でもないわぁ!」
……すごい。
自然の中で育った人にとっては、10km×4日なんて、むしろリフレッシュらしい。
さてさて、私たちはというと、その日ゆっくり起きて、11時過ぎに家を出発した。
道中のパン屋さんでキッシュ、クロワッサン、イチゴパイを買って、歩きながら腹ごしらえ。
歩いて15分ほどで黒い森(Schwarzwald)の入り口に到着すると、そこからが本格的なスタートとなる。
急勾配の森道をゼイゼイ言いながら登っていると、前をリスが横切った。
黒い森に住むリスは、濃い茶色で耳の先がボワボワ、お腹は白くてまるでエゾリスのよう。
毎回出会えるわけではないので、ちょっとラッキー。
坂をやっとこさ上がり切り、森の本道に合流する頃には、すでに体力は半分に……。
「こんなんで疲れてて、普段どうやってビーチバレーしてんのよ(笑)」
本当それな。
私、普段からビーチバレーしてるから体力には自信あったのだが、ハイキングって使う筋肉も呼吸も全然違うんだということを知った…。
顔を上げると同時に「あれ?向こうからやってくるの、アイコじゃない?」
私も振り向くと、丁度こっちに向かって歩いてくる友達の団体だった。
もともと彼らに誘われてはいたのだが、あまり時間的に縛られたくないとお断りしていたのだ。
「よおー!まさかこんなところで偶然会うとはね!」
彼らはビールと食べ物を台車に満載し、スピーカーからは爆音の音楽が流れている。
まさに絵にかいたような「5月1日のハイキングを楽しむ典型的なドイツ人」の姿であった。
途中まで彼らと一緒に歩くことにしたのだが……これがなかなか進まない。
100メートルごとに立ち止まって話し込むスタイルで、たった数km進むのに2時間かかるというスローペース。
でもそのおかげで、全然疲れずにいられたので、ある意味ありがたかったかもしれない。
「もっともっとビール飲んで!このままだと減らないから頼む~!!(泣)」
とのことで、いただいたのはオーストリア・ザルツブルクのビール「Stiegel」
これがかなりあっさりとした味わいで、一瞬「水?」と疑ってしまうほどだった。
こうやってビールをたくさん飲んでいると、もちろんトイレに行きたくなる。
男性はいいよな、道端で済ませられるから。みんな数メートル離れた道端からスッキリした顔で戻ってくる。
別れを告げてからは、目標だった山の上のレストランを目指して一気にスピードアップ。
私は尿意をガマンするのに必死で、レストランというよりトイレ目当てで全力ダッシュした。
レストランはハイキング客でにぎわっていて、少し高い場所にあるから風が心地よく通り抜けて、汗もすっと引いていくのがわかる。
相席させてもらった大きなテーブルで、ビールとソフトドリンクで乾杯した。
注文した「行者ニンニクとアスパラガスのニョッキ」は大正解!すごく美味しかった。
ゆっくりと周りを見渡すと、他の座席の足元には、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、そして黒い大型犬が。みんなレストランから水をもらって、ごく自然にくつろいでいた。
山の上からは遠くの山々まで見渡すことができる。
ただ、残念ながらこのエリアは3月に山火事に見舞われたそうで、いまはメニューも座席も限られた範囲で営業しているとのこと。ちょうど稼ぎ時を前にした時期だけに、本当に気の毒だ。
帰りは山道を下ってトラムに乗り、のんびり帰宅。
「楽しかった。けど疲れた~。まぁ…しばらく自然はいいわ(笑)」
「(笑) また来年ね。」
家に帰ってソファでゴロリ。この瞬間こそが、最大のご褒美だと思う。
しかし、鏡を見ると驚いた。筆者の肌は、いつもなら黒く焼けるだけなのに、今日はほんのり赤みを帯びている。
5月1日にもかかわらず、まるで夏休みに沖縄で過ごしたかのような焼け方。
これからビーチバレーも夏本番も待っているのに、今から焼けすぎてどうするんだ……!
余談:黒い森で見つけたコレって、山菜のこごみだろうか?
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