ファスナハトの期間、南ドイツ～オーストリアにかけて、ところにより行われるこの伝統行事は「Scheiben schlagen」という。
2023年2月25日（土）、私たちはHolzenという小さな小さな田舎町へと向かった。
Holzenでは、毎年Scheiben schlagenが催される。
近所に住む知り合いの家から、松明を持って出発する。
日が完全に暮れると、山の中はもう真っ暗、まさに漆黒で松明の明かり以外何も見えない。
一寸先は闇とはこのこと！と思いながら更に進んでいくと、巨大な焚火が見えた！火柱は高さ10メートルくらい、火の粉は15メートルくらいの高さまでゆうに舞っている。
山の傾斜の前の方では、滑り台を固定したような台があり、そこで幼稚園～小学生低学年くらいの子どもたちがScheiben schlagenを楽しんでいた。
こんな小さな子どもたちが、焚き木の周りに立って、枝の先を火にくべている。火の扱いにこんなにも慣れているのが驚きだった。日本だったらこんな状況見ることはまず無いだろうなぁ。
大人たちはこうして、ビールなど飲みながら談笑している。
中央の大きな炎から少し離れたスタンドにいるのに、ポジションによっては顔が焼けてしまいそうなくらい熱い。気温は3度のはずなのに、みんな汗ばんで上着やマフラーを脱ぎ始めた。
さて、Scheiben schlagenは実際の所どうやってやるかというと‥
こうした木のブロックを真っすぐで長い枝の先に刺して、火にくべる。
木のブロックの周りが赤くなってきたら火から外し、上向きにクルクルと回しながら台へ向かう。
台の横に立ち、ゴルフのように野球のバッティングのように、思いっきり振る！日頃のうっ憤を晴らすかのように！！
台に当たった木のブロックは、赤い光となって、ぴゅーんと遠くへ飛んでいく。
これがうまく遠くまで飛んでいくと、空中待機時間が長くなり、気持ちが良いのだ。
子どもたちはかなり楽しいみたいで、2時間くらいずーっと休みなく枝を振っていた。
ふと目に留まった、誰かが木のブロック以外の物を焚き木にくべている‥。
私が見ていると、その人は教えてくれた。「これはベーコンだよ！ナイフで細かく切り目を入れて、火にくべるんだ。良い感じに焼けてくると、こうして丸くなるんだよ。」
炎の中に滴る肉汁…。これは絶対食べないといけないやつだ、と確信した私はスタンドへ直行した。
スタンドでベーコンを注文すると「穴、自分で開ける？」とドリルを渡された。（笑）
穴は、火にくべるために銛のようなものを刺すために開ける。さすがにドリルはちょっと怖かったので、他の人にお願いした。
卓上ナイフで細かく切り目を入れて、いざ火にくべると、さっそく肉汁が滴っている。
少し焼きすぎに見えるこのカリカリベーコンは、絶品だった。少し塩辛いけど、脂が甘くてジューシーだった。これを指で引きちぎって食べる。
このベーコンは、地元の猟友会によってとれたものらしい。値段も１つ3.5€と格安で、狩人の方に安すぎない？と言ったら「私たちは、ここでは儲けは関係なくやっている。みんなが集まるための場所を提供したいだけだからね。」と言っていた。
村の人々はすごく親しみやすくて、初対面で外国人の私に気軽に話しかけてくれた。おかげで色んな人と話をすることができた。思わず一瞬、あれここドイツだよね？！と周りを確認しそうになったけど（笑）
時間がたつにつれて中央の大きな火の背はどんどん低くなり、美しさは増していく。山のようにこんもりしている中の部分まで火が回って、青い炎もちらちらしていた。マグマのようにも見える。
この火は明け方までに自然と消える。でも1週間後、長い時は2週間後も、このマグマ山を掘ると中深部は火がくすぶっているらしい。
不思議と、熱さも和らいできていた。さっきまで少し近寄ると顔が焼けそうなくらい熱かったのに、今はとても心地の良い温かさだ。これが暖炉のトリックだよなぁ。
この木の山は、去年の11月くらいから村の人たちが廃木材や役目を終えたクリスマスツリーをここに捨てに来て、集まったものだという。
夜が深くなると、子どもたちは帰っていき、大人たちだけが残っていた。
そして大人がやっと！と言わんばかりにScheiben schlagen を始めた。ドイツ人の男性たちが思いっきりやると、遠くへ良く飛ぶこと。
聞くところによると、空中待機時間を競う大会もあるらしい。
「冬よ、さようなら～」という意味を込めたこの伝統行事。今までこちらの宗教的な伝統行事に興味関心のなかった私が、心から楽しめたお祭りだった。
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